ロシア流2007年09月08日 22時01分51秒

モスクワ大学本館。高さ250メートル超。巨大さゆえに遠くからでも近くに見える
 受付開始の1時間前に着いたのに、すでに部屋の前はたくさんの中国人が詰めかけていた。7日朝、モスクワ大学本館8階にある外国人用窓口。受付は午前10時半から。ロシアに滞在する外国人に義務づけられている滞在登録「レギストラーツィア(レギ)」の手続きが目的だ。実に4度目の「挑戦」だ。

 4日前のこと。留学先の同大学ジャーナリズム学部の指示で、レギの手続きのためにこの部屋にやってきた。手続きをしているのは無愛想な40代とみられる女性。たばこをぷかぷか吸いながら書類に目を通す。「学部からの手紙、寮からの滞在証明が足りない」。突き返される。翌日、2度目の挑戦。今度は「書類に3カ所ミスがある。まあ、あんたのせいじゃないけど、学部のミスね。明日はいないから明後日おいで」。指示された2日後に訪れると、「今日はもう店じまい」。受付は今日から午前中だけになったらしい。3度目は不戦敗。

 そして4度目。彼女は相変わらずたばこを吹かしていたが、これまでにない新たな動作をし始めた。何やら引き出しから書類を取り出し、書き出している。もちろん、ロシア語ほぼ初心者の私には何を書いているのかわからない。だが、ふつふつと涌く勝利の予感。書き終わるとカレンダーを確認し、メモを渡してきた。「18日に1階の部屋に来い」。まだ戦いは終わってなかった。ともあれ、前進したことは確かだ。こみ上げる安堵感で危うく忘れるところだった。ドアを開けかけたところで思い出し、つたないロシア語で彼女に聞いた。「18日は何時に行けばいいのか?」。彼女は相変わらず無愛想にメモに書いてくれた「午後2時からだ」。危ないところだった。

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 8月30日から約1年間、会社の制度でロシアのモスクワ大ジャーナリズム学部に留学する32歳会社員。ロシアは初めて、ロシア語初心者。そんなロシア「ド素人」が日々体験するロシアを紹介するブログです。個人的な記述にならぬよう、ロシアに関心がある人が読んでためになる、楽しい内容を盛り込みたいと思います。

ニェ・ウドーブナ2007年09月09日 19時14分10秒

 ロシア語に「ニェ・ウドーブナ(неудобно)」という言葉がある。「не」は「~でない」という否定の接頭辞、「удобно」は「便利な」という意で、全体として「不便だ」という意味になる。出国直前、かつて私と同じようにモスクワに留学したことのある会社の先輩からこの言葉を教わった。「毎日『ニェ・ウドーブナ』の連続だった。そのうち、今日はどんな『ニェ・ウドーブナ』に出会えるか、わくわくしてきた。そうやって楽しまなきゃ気がおかしくなるぞ」。先輩のこんな送別の言葉を早くも痛感している。

 すでにブログで書いたとおり(「ロシア流」参照)、レギストラーツィア(滞在登録)の一連の手続きがいい例だろう。これにまつわる一連の「ニェ・ウドーブナ」をもう一度整理してみたい。まず、モスクワに着いたのが8月30日。夕方に着いたので、今住んでいる寮ではなく、ホテルにチェックイン。ホテル滞在中はホテルがレギを出してくれる。チェックアウトから72時間後に効力を失う。翌31日。学部に行き、手続き開始。ロシア語素人同然のため、留学を斡旋してくれた日本の業者に頼み、1日だけ日本語が出来るロシア人を付けてもらう。以降は次の通り。

①学部の女性事務「レギは寮がやる」(31日金曜日)
②寮母「いやいや、学部だよ」(同)
③学部の女性事務「ごめん、間違ってた。大学本館の外国人窓口だった。土日は休みだから月曜日に行ってね」(同)
④大学本館の女性事務「学部からの手紙と、寮の滞在証明が足りない」(9月3日月曜日)
⑤学部の女性事務「えっ、そうなんだ。じゃあ、これ手紙ね」(同)
⑥寮母「今日はもう店じまいだよ。働かない。明日ね(←おいおい、まだ部屋に残ってパソコンいじってんならやってくれよ)」(同)
⑦寮母「はい、これが滞在証明ね」(4日火曜日)
⑧大学本館の女性事務「ほかの書類で3カ所ミスがあったわ(←いっぺんに言ってくれ!)。やり直し。明日はあたしいないからあさって来て」(同)
⑨学部の女性事務「えっ、そうなんだ。私たちでも難しいのよねぇ、事務手続きって(←おいおい、あんた、それで給料もらってるんちゃうんかい)。明日は午後1時から本館の事務が始まるから遅れずにね」(同)
⑩(念のため、正午に行くと・・・)大学本館の女性事務「残念だったね。今日の受付は午前中だったの(←学部の事務員!あの自信はいったいどこから来るのだー。そして本館の事務員、あんたも時間の変更あるなら前回言ってくれー)」(6日木曜日)
⑪大学本館の女性事務「書類はオーケーね。じゃあ、18日に別の部屋に来てね(←ふぅー、って、まだ終わってなかったんかいっ!)」(7日金曜日)

 健康診断もなかなかの「ニェ・ウドーブナ」だった。

①学部の女性事務「紙に書いたこの番号の部屋に行って。行けばすべてを説明してくれるわ」(9月3日月曜日)
②病院の看護婦「健康診断?今日はもう店じまいだよ。またおいで」(同)
③学部が指示した部屋に行くと、閉まったまま。別の部屋の前で、生徒の長蛇の列発見。うち1人に聞くと「健康診断?ここが受付だよ(←学部の事務員、お願いだから、自信満々に言うのだけはやめてくれ)」(5日水曜日)
④看護婦「では、この三つの検査を受けてね」(同)
⑤看護婦その2「指の採血は終わり。次はこれ行ってね(←これってなんだろう?)。部屋はあそこだから」(同)
⑥看護婦その3「持ってきてないの?だめだよ(←えっ、何を?)。『しーしー』ってやつよ(←ははーん、なるほど尿検査ね。で、トイレはどこよ。カップで採ればいいんだろ?)。あんた何言ってんだい?そんなものないよ。自分でペットボトルでも何でもいいから入れて持ってくるんだよ。そしてここに置きな。容器?何だって構わないよ。大きいのだろうが、小さいのだろうが、好みのもので持ってきな(←カルチャーショック!ロシアでは尿は自ら持参するという!)」(同)
⑦看護婦その4「腕の血液検査だけど、今日はあと7人で締め切るよ(←見事に8人目)」(同)
⑧看護婦その4「腕の血液も終了。じゃあ、来週の火曜日に結果取りに来て(←単なる健康診断もロシアでは数日がかりになってしまう)」(6日木曜日)

 今日(9日)現在、いずれの手続きも完了していない。今後も「はうあっ!」「ぬなっ!」と思う「ニェ・ウドーブナ」を紹介していきたい。

ロスタイム2007年09月22日 23時24分14秒

 ロシア入国以来、早くも最大のピンチを迎えた。あわや不法滞在になりかねない事態を迎えたからだ。要するに、ビザが延長できないまま切れてしまう可能性が出てきた。

 順を追って説明したい。私のような留学生はたいてい、まず1ヶ月のビザで入国する。入国後に大学にビザの延長手続きをするのだが、今回のケースでは、この期限内に延長できないことが決定的になった。ビザが切れれば、当然不法滞在。モスクワには街のいたる所に警察官がおり、職務質問を受けたときにそれが発覚すれば大変な事になる。

ただし、常に事務手続きが遅いこの国のこと。こうしたことはよくあるという。手続き中にビザが切れても法的に問題がないよう「スプラーフカ」という紙切れが大学側から交付される。スプラーフカとは「証明書」という意味で、不法滞在ではないという証しのようなものだ。ところが、私の場合、このスプラーフカの交付さえも期限内に間に合わないのでは、という展開になった。

 現在持っているビザの期限は今月23日まで。大学側は早くて24日にスプラーフカが出せるという。ちょっと待てい!その流れだと、24日は不法滞在。たった1日のことだが、実は大学最寄りの地下鉄の駅には結構警察官がいる(学生に扮したテロリストの可能性を考慮した警戒体制ではないかと勝手に推測)ので、大変に危険だ。ということを猛烈に抗議した(もちろん怒っているニュアンスのロシア語は知らないので、相手は訳のわからん事を一生懸命言っているとしか思っていないだろう)が、相手はダメの一点張り。

 これはさすがにまずいと思い、学部に事情を説明。さすがに学部も焦ったのか、翌日職員が同行して説明を受けることになった。そこで判明した事。ロシアの現行法では、ビザの期限から3日間は不法滞在とはならないという。つまり、「26日までにスプラーフカを手にすれば大丈夫」という大学側の主張だった。

 いわば「ロスタイム」の3日間を使って手続きをなお続行しろということだった。しかし、手続きをしてる外国人窓口は水曜日は休み。ということは、自動的にロスタイムは2日間。しかも窓口が開いているのが午前、午後のいずれかのみで、職員たちは仕事が遅く、連日多くの外国人が押し寄せる。依然危機的な状況は変わっていない。

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 このように連日手続きに追われた上、今までインターネットに無線ラン接続していたネットカフェで、突如接続できなくなったことなどからブログの更新が滞ってしまいました。すいませんでした。一日も早く学生生活を軌道に乗せ、ロシアのためになる情報を載せていきたいと思います。

奈落の底2007年09月25日 22時05分29秒

自宅最寄り駅の地下鉄。深さ100メートルぐらい
 些細な事でも置かれた状況によってはすごくうれしく思えるときがある。度々話題にしたビザとレギストラーツィア(レギ)の手続きが昨日、やっと延長の申請が終わったのがそれだ。単に申請が終わっただけで、新しいビザができあがったわけではないが、今のビザが切れる3日前になんとか終えられたので本当にほっとした。徹底的に「不便」な状況を与え続けられると、ちょっとしたうれしさが増幅し、大きな幸福感をもたらす・・・。もちろんうがった見方だが、これが社会主義流の統治テクニックかと思わざるを得なかった。ちなみに新しいビザとレギは早くても3週間ぐらいかかるという。ふぅ、まだ手続き続くのか。

 手続きの話は終わりにして、今回は地下鉄の話。モスクワの地下鉄はとにかく深い。場所によっては100メートル以上も潜っていると思う。冷戦時代、核戦争が起きた場合にシェルターとして利用するためにこうした構造になったらしい。

暗いトンネルを延々エスカレーターで下っていくと、いつも奈落の底に吸い込まれそうな気分になる。ところが、最近、本当に引きずり込まれていることに気づいた。実は、エスカレーターの階段部分と手すり部分の進むスピードがそれぞれ微妙に違うのだ。手すり部分が微妙に早い。長い距離を下っていくと体側に置いていた手がいつの間にか前に引っ張られ、つられて体が前につんのめりそうになる。

 最初は長い距離によって無意識につんのめっているのかと思っていたが、本当に引っ張られていたとはちょっとした驚きだった。なぜこうしたスピードの「ずれ」が生じるのか。エスカレーターの距離が長いから誤差が次第に大きくなった結果なのか、あるいは構造上の欠陥なのか。モスクワで知り合った日本人は「古いから、できが悪いだけだよ」と切り捨てた(笑)。

それにしても、この「奈落の底」に向かう長いエスカレーターを駆け足で下っていくモスクワの人たちには感心する。さすがに登りともなると頑張れる人は少なくなるが、中には駆け上がる人も。ちなみに歩かない人はエスカレーターの右側にいるルールで、これは日本の関西方式と同じ。

地下鉄の中では、女性やお年寄りに席を譲る乗客の姿を頻繁に見かける。大いに見習うべき部分だ。